本日天気晴朗なれども波……が高いかどうかは
そんなこんなで改めましてごきげんよう。今日も私は生きている!生きているって素晴らしい!
テンションが高めなのは許していただきたい。
夢だったらいいなーと心の底から願っていたが、朝起きたらやっぱり窓は開きっぱなしだった。
そうか、あれは夢じゃなかったかと思うと同時にどうにか生き延びたという実感が湧いたので、喜びをかみ締めていたのだ。
ちょっとここらで冷静になって自分について振り返ってみたいと思う。
今世の私の名前はシャーロット。本名はもうちょっと長いけど、まあいいや、省略。
前世では黒髪黒目だったが、今世では鈍い黄色の髪に群青色の瞳というカラーリングになった。
この色彩はどちらもこの辺りでは一般的な色合いのようだ。似たような色合いをよく見かける。
顔立ちは良くも悪くもなく、ごく普通。やや前世の面影があるようにも思える。一言添えるならかなり地味。
そんな現在五歳の幼女である。幼女だからまだ可愛いと言われるが、成長すれば確実に周囲に埋没すると想像に難くない。
実はとある王国の王女──ではあれども第三妃の生んだ第四王女という、いてもいなくても関係ない立ち位置だったりする。
けれど腐っても王女。普通を願ったはずなのに何故か王女。
普通はどこいった、普通は。記憶が戻った時には思わず頭を抱えたくなった。
王族の暮らしがこの世界の「普通」なわけないので、先に言った「のんびり過ごしたい」の条件に合致したのが王族だったのだろう。
おそらく優先順位は「寿命」>「のんびり過ごす」>「普通」になったと推測される。
もしくは普通が適用されたのは容姿や能力値だけだったという可能性もある。
まあね、革命か戦争でも起きない限り王族の生活は概ね安泰だよね。
王女の生活が必ずしものんびりしているかと言えばそうでもないけど。
物語なんかだと日がな一日刺繍をしたり詩篇を読んだりと優雅な生活をしているイメージだが、実際には勉強時間がびっくりするくらい多い。
ひねもすのたりのたり、とはいかないらしい。
五歳児なのでそこまで本格的な座学をしているというわけでもないんだけど、会話術やマナーレッスンを中心に勉強時間が盛り込まれている。
優雅さを演出するためには水面下の努力が必要なんだなあ、と実感した次第。
もちろん、明日の食事にも困るというほど逼迫した生活ではないのだから恵まれているのは分かっている。ありがたいことだ。
政治的な面でも、王子、もしくは正妃の娘であるならともかく、第三妃の娘なんて利用価値のないものをわざわざ取り込もうとする者などそういない。
政権闘争に関係ないと考えれば比較的のんびりしている、と言えなくもないかな。
まあ私が今ここでどうこう言ったところで、なってしまったものは覆らないし、これについては潔く諦めるしかない。
それにしても、あのないない尽くしの白い空間での記憶が一番に戻ったのは幸いだった。
そうでなければ自分のものじゃない大量の記憶に混乱したのは間違いない。
夢という形だったり、ふとした瞬間に思い出したりと徐々に増える謎の記憶。ホラーである。
ついでにある程度こちらの文化を覚えてから思い出し始めたのも良かった。
なにしろ言語が全く違う。この世界の言葉を覚える前にあちらを思い出して自我を形成してしまえば矯正が大変だったはずだ。
余談だが前世の私は「外国語なんか滅べばいいと思う」と真顔で発言してどつかれたことがある。
今の私はシャーロットとして覚えたこの世界の言葉で思考・会話をしつつ、前の世界の言葉でも思考をしている状態だ。
シャーロットはお姫様らしく上品な言葉遣いを教わっている上に、幼児なので語彙数が足りない。
前の世界でも語彙数が多いと胸を張って言えるわけじゃないが、少なくとも今の世界で覚えている語彙数よりは豊富だ。
むしろ前の人生を三十年近く生きてきて今より少なかったら困る。
まあ前の世界では縁のなかった貴族社会の用語なんかはうまいこと認識できない場合もあるけど。
ところ変われば品変わる、世界が違えば常識も違うのは当たり前のことだ。まだ幼児なんだし、おいおい覚えていけばいいだろう。
それでも前の世界の記憶のおかげで幼児としてはそこそこの思考能力を持っている私は、二通りの思考を使い分けることでそれなりにうまくやっていた。
後宮の建築物や周囲の服装を見る限り、今度の世界は中世ヨーロッパ風のようだった。
建築様式に詳しくないのでバロック様式なんだかゴシック様式なんだか全く別なのかすら分からないが、なんとなく中世と聞いてイメージするような文化圏である。
私が主に生活しているのは王宮の一画にある男子禁制の建物──後宮だ。
たまに用があったり呼び出されたりすると本宮に行くこともあるが、基本的には後宮内で一日を過ごす。
前の世界では色彩の大雑把な種類の数で文明の進化の度合いを測るという方法があった気がする。
どこの文明でも必ず白黒は存在し、そこから赤、黄色、緑などの色を表す言葉が増えるとかなんとか。
確か中間色を表す言葉があるのはそれなりに成熟した文化だけだったように思う。
それを踏まえてこの世界の文化レベルを考えれば、灰色や桃色などを表す言葉があるのでまあまあ発展した文化なのだろう。
もっとも、私がうろうろ出来るのは後宮内の自分の区画だけなので断言は出来ないが。
女性医師がいたり、上下水道の設備がそれなりに整っていたりするので完全な中世ヨーロッパというにはやや違和感があるかも。
とりあえず私はファンタジーな世界なんだな、の一言で片付けることにした。便利な言葉だよね、ファンタジー。
いかにもなファンタジーらしい魔法や異人種はお目にかかったことないのが残念。
聞いた話だと異人種は遠い南の大陸にはいるそうだよ。私の住む大陸、特にこの国周辺で見ることはまずないそうだけど。
興味あったのになあ。詳しく聞こうとしたら言葉を濁されてしまった。
魔法はといえば、どうやら人間が使えるものではないっぽい。では完全にないかといえばそうでもないようだ。
前の世界の感覚で表現すると魔法っぽい、というものはいくつか存在する。
ま、シャーロットとしての感覚からすると前の世界のあれやこれやも十分に魔法っぽいけどね。その辺りは機会があれば説明するとして。
長々と語ってみたものの、総括するとゲームや小説によくある中世ヨーロッパ風ファンタジー世界にいるよ、ということだ。
で、私が今何をしているかというと。
「姫様、こちらでよろしいですか?」
大きな姿見の前に連れて行かれる。そこに映っていたのは見慣れてしまった幼女の姿。
しかし見ろと言われたのはそこじゃない。
「ええ、いいわ」
濃紺のサッシュでアクセントをきかせた、クリーム色のふわりとしたドレス。花をかたどった宝石のついたカチューシャ。
ローヒールのぴかぴかに磨かれた靴。
そう、私は朝の着替えの真っ最中だった。
侍女の選んだドレスをメイドに着替えさせてもらいながら考え事をしていたのである。
着替えくらい一人でどうにかしたいものだが、服の作りがどう考えても一人で着られる作りになっていないので諦めた。
女性用のドレスってどうしてあんなに難解な作りなんだろうね。
なお、実際にはこちらの言葉だと「侍女」は「傍仕え」、「メイド」は「女性使用人」くらいの意味合いの単語なのだが、前の世界の知識に照らし合わせて仮に侍女、メイドと表現しておく。
小間使いでもいいけど、個人的に表記はメイドの方が好きだ。
そんなことを考えつつ、私は手伝ってくれた使用人達へ、お礼の代わりににっこりと笑った。
本当は「ありがとう」と言いたいところなんだけど、上の者は下に対してあまり頻繁に礼を言ってはならないという風潮があるのだ。
出し惜しみするほど希少価値が上がるってのは分かるけど、個人的には感謝の言葉くらい惜しみなく伝えれば良いと思う。
ただ、王族があまり常識外れなことをしでかすと色々と問題が生じるというので、自分の使用人達にお礼を言いたい時には代わりに笑いかけることにした。
後宮で私の面倒をみる、というのは彼女らの仕事のうちなので妥協しておく。
その人の職分外に対する感謝については誰が何と言おうとお礼は言うし。人として感謝の気持ちは忘れちゃいけないよね。
そうこうしているうちに、起きて一番に打診した兄様とのお茶会が問題ないよ、という返事が来た。
本来ならば数日前から打診するのがマナーなんだけど、無理を言って今日のお茶に招待したのだ。
ごめんね兄様、でも嬉しい!やった!貴重な癒しの時間ゲット!
待ちに待った昼下がりのお茶の時間。
後宮の庭の一角にあるスペースで私は兄様をそわそわと待っていた。
周囲に控える使用人達がほほえましいものを見る目でこっちを眺めているけど気にしない。
しばらく大人しく待っていると、植木の切れ目から兄様の姿が見えた。
この国では珍しい、さらさらとした濃い金色の髪が陽光で輝いている。
「兄様!」
駆け寄って抱きついた。
精神年齢はともかく、今の私は五歳児だよ!?甘えても許されると思うんだ。
王女としての礼儀作法?大丈夫、ここは私的な場だから。駄目でも大丈夫ということにしておく。
「やあ、おてんばさん。今日も元気だね」
微笑みと共に受け止めてくれたきらきらしい美少年こそ、御年十歳になられる私の兄様である。
兄様といっても彼は今は亡き正妃の唯一の子であり、私とは半分しか血が繋がっていない。
私には兄が二人と姉が三人、弟妹が一人ずついる。
内訳としては、正妃が第一王子、第二妃が第二王子、第一〜三王女、第五王女、第三妃が第四王女、第四妃が第三王子を産んでいる。
こう並べて考えると第二妃はすごいな。先に言った通り、第四王女というのが私のことだ。
きょうだい達は上から、第一王子、第一王女、第二王女、第二王子、第三王女、私、第三王子、第五王女となっている。
多分。第一王女と第二王女は双子、第一王子と双子王女の差は半年程度、第三王女と私の差も同様。
「おあいできてうれしいです!」
今世の私に血縁者は多くあれど、家族と呼べるのは一番上の兄様だけだ。まともに相手をしてくれるのが兄様しかいないとも言う。
今世の母親はどうやら娘には全く興味がないらしい。顔を見る度に「どうしてお前は男として生まれてこなかったのか」と嘆かれる。
そんなもの私に言われても困りますがな。
私が年齢通りの精神なら確実に押し潰されるだろう圧力も、前世のおかげでスルー出来るのはありがたい。
でもお子さんの教育にはよろしくないと誰か言ってあげて。無理だろうけどさ。
父親の方はそもそもほとんど話したことがなかったり。数度言葉を交わした時も父というより国王だった。気軽な馬鹿話は期待できそうもない。
噂を聞く限りではそう悪くない統治者であるらしい。後宮には関心が薄いという噂も聞いた。
少なくとも家族愛に満ち溢れた人物じゃないのは確かだ。
例えばの話。私が誘拐されたとしても、国王陛下は犯人からの要求には応じないだろう。
無駄な食い扶持が減ると喜ぶことはないにしても、必死になって探そうとはしないに違いない。
陛下にとって私はさほど必要な駒ではないからだ。
持て余すほどの問題児でもなければ、国家に必要な人材とも言えない。
あってもなくてもいい駒、それが国の中での私の立場である。王子が三人、王女が五人もいるのだ。
幼い私の数少ない公務など他の王子王女に務まる程度のものでしかない。
もちろん攫われた場所──王宮とか離宮とか神殿とか──によっては国家の威信をかけて見つけ出そうとするかもしれないけれど。
家族愛云々とかいう生温い感情であの国王陛下が動くとは思えない。利用価値がなければ助ける気もないだろうことは想像に難くなかった。
むしろ「家族を人質にとられても犯罪に屈しない国王陛下の英断」という美談にされるのが関の山。
私の方も尊い犠牲にされるのは御免なので身の回りには気をつけたいものである。
色々と期待できない両親の話はさておいて。
「きょうはおはなししたいことがたくさんあるんですよ!」
「そうか。楽しみだな」
兄様とお茶を楽しみながら日常の話をする。ダンスレッスンがうまくいかないこととか、計算が速いと褒められたこととか。
こういうどうでもいい話に微笑んで頷いたり、質問をしてくれる兄様は本当天使。
そんな無駄話の合間に、本題をさらりと挟んだ。
「そうそう、けさはだれかにみられているゆめをみました」
「へえ?」
確かに窓を閉めて寝たと思ったのに窓が開いていて誰かが私を見ていた、朝起きたら本当に窓が開いていた……というような内容を話す。
「こういうときのおやくそくはかぞくなのでしょうけれど、おもいあたらないんですよね」
こちらの御伽噺の一つに、亡くなった身内が主人公を傍で見守っている、というものがある。
前の世界でいうところの夢枕に死んだ人が立つとかそういうのと同類の迷信として有名だ。
昨晩、侵入者がいたと言い切れるのは私だけ。普通に考えて夢でも見たんだろうの一言で片付けられる。
後宮にもぐりこむような相手だ。内通者の一人や二人、いてもおかしくない。
なんだったら暗殺者自身が使用人や護衛として紛れ込んでいる可能性だってある。
そんな中でうかつに騒げば私が物理的に片付けられるかもしれないのだ。
ほとんど後ろ盾のない王女なんて蝋燭の火よりも簡単に消されてしまう。
ならば夢を見たということにしておけばいい。
こうして話しておけば、後ろに控えている兄様の護衛や使用人達が万一を考えて警戒を厳しくしてくれるかもしれない。
第四王女の話は実は夢ではなく侵入者なのではないか、と。
兄様なら子飼いの「影」くらいいそうだけど、用心するに越したことはない。
現在の私に出来る精一杯の警告だ。
父王が健在の今はまだ良いけど、後継者争いが結構きなくさいんだよね。
普通なら正妃の子で第一王子の兄様が王となるはずだ。異論をさしはさむ余地などない。
しかし、兄様を支えてくれるはずだった正妃の不在がネックとなっている。
正妃亡き今、後宮で采配を振るっているのは第二妃だ。有力な公爵家の娘であり、第二妃派は後宮内の最大勢力でもある。
兄様の後ろ盾は大国だが隣の大陸だ。正妃が亡くなってしまったため、やり取りが頻繁ではなくなっている。
つまり、兄様が何らかの理由で死亡、もしくは継承権を放棄せざるをえない状況に陥れば、次の国王は間違いなく第二王子になる。
ついでに兄様廃嫡の理由を弟である第三王子になすりつければ完璧だ。我が国では女性に王位継承権は認められていない。
男尊女卑?それがどうした問題でもあるのか、というお国柄だ。
私は郷に入ったら郷に従っちゃうので「そんなのおかしい!」とか言って改革を起こすタイプのヒロインにはなれない。
シャーロットの常識としてそうやって刷り込まれているというのもある。
そしてここが重要なポイントだが、私は第二王子に嫌われている。嫌われているというか疎まれているというか。
要するに気に入らないんだと思う。会う度に嫌味を言われる。
第二王子が王位につけば、おそらく私ののんびりライフは終了となる。それは避けたい。
そんな不純な理由も少なからずあり、兄様とのお茶会を希望したのであった。警告と共に私の癒しの時間も取れて一石二鳥。
「そういえば、もうじき王宮に『○×△』が来るというのは聞いたかい?」
兄様の言葉の中に知らない単語があった。
「なんですか、それ?」
首を傾げた私に兄様が説明してくれたところによると、各地を巡りながら芸を披露する一団とのことだった。
旅芸人の一座とか雑技団とかそんな感じだろうか。
「演目までは聞いていないけれど、シャーリーもきっと楽しめると思うよ」
「そうなんですか、たのしみです!」
もしかすると、こちらでは生まれて初めての大衆的な娯楽かもしれない。
いやまあ公務の一環になるので無心に楽しめるものじゃないんだろうけど。他のきょうだい達もいるしね。
でも王宮に紹介されるような一座ならきっと面白いだろう。
兄様は優しく微笑み、うきうきしている私の頭を撫でてくれた。
ひらひらと舞うリボンと共に、音楽に乗せて美女が踊る。
舞踊にあわせ、足首につけた鈴音が鳴り響く。
広いダンスホールの二階席から、私は本日最後の演目である演舞を観ていた。
我が国の王宮にあるホールには広い通路のような二階席があって、催し物を上から眺められるようになっている。
いわゆる桟敷席とでもいえばいいのか。といっても二階席を使えるのは王族のみで、他の貴族は一階で観覧するんだけど。
厳格な式典に臨席しているわけじゃないから、今の席次は割と大雑把だ。
国王陛下の場所は決まっているものの、後は各々好きなように座っていた。
今回は一応公務なので幼すぎる弟妹以外は兄弟姉妹がそろっている。
陛下から見て左に第二妃の生んだ兄姉達が集まっており、彼らと同じ側にいたくなかったので、ホールをはさんで向かい側に座ることにした。
こっちには兄様もいたしね。というか多分、兄様がこっちにいたから他の兄姉は向こうに行ったんだろうな。
姉達がどう思っているのかまでは知らないが、第二王子は兄様を敵視してるから。
どういう名目で誰がこの一座を呼んだのかとか、招待された貴族がどんな基準で選出されたのかなどは一切知らされていない。
兄様は知っているのかもしれないけど、私が知らされたのはこの催しを観覧する公務が入ったという情報だけだ。
年端もいかない幼女にわざわざ教えることもないという配慮とみるか、どうせ将来的に要職につかない王女だからなめられているとみるかは微妙なところだな。
おそらくは両方だろう。
私の隣に座っている兄様にちらりと視線をやると、同じようにこちらを見ていた兄様と目が合った。
「すごいですね!」
演目の邪魔をしないように小声で話しかける。兄様は「そうだね」と笑みを浮かべて同意してくれた。
視線を下に戻す。ホールでは先程の踊り手が大きな輪を使用して舞っていた。
新体操のフラフープをイメージすると分かりやすい。飾りの付いた大きな輪を飛ばしたりくぐったりしている。
残念ながら踊りの良し悪しは分からないんだが、なかなかの技量なんだろうと思う。
踊り手が見目麗しい肉感的な美女な辺り、若干含みを感じなくもないけど……。
これはあれだろうか。やはり王族とまではいかなくとも、見に来た上位貴族とつなぎを取りたいとそういうことなんだろうか。
単に一座の踊り手が彼女しかいないという可能性もあるけどさ。踊り手は花形だから容姿の優れた者が選ばれるんだろうし。
旅の一座なんて何はなくとも衆目を集める必要があるから、華やかな見た目の女性が踊り手になるのは当然といえる。
今回王宮に呼ばれたのは彼女も入れて六人。
座長と踊り手、歌い手、楽器が二人、そして踊り手のアシスタントをしている少年が一人という構成だ。
少年を含め男性は皆頭にターバンというかバンダナというか、そんな感じの布をつけている。
民族的な風習とか宗教的なものなのかもしれない。
盛り上がっていた曲調が、徐々に緩やかになっていく。
曲の調べに合わせ、激しかった踊りも穏やかなものへと変化した。
踊り手がゆっくりとした動作で地面に膝をつき、一拍遅れて追いかけるようにふわりとリボンが下へ落ちる。
同時に曲も終わり、踊り手が深々と陛下の方に向けて一礼した。彼女が顔を上げた途端、拍手が沸き起こる。
私も精一杯拍手をした。踊り手は蠱惑的な微笑を浮かべながら観客達に向けさらに一礼し、傍に控えていた一座の仲間の元に戻る。
入れ替わりに座長がホールの真ん中で締めの挨拶を始めた。
お追従交じりの言葉を受けて、国王陛下が今夜は一座を慰労する会を開く旨を宣言する。
お決まりの流れなので私はどちらも聞き流していた。
夜のパーティも今の所関係ない話だ。良い子は寝る時間だからね。
酒宴を含むようなパーティに参加できるのは社交界デビューを果たした者のみ。うちの国では早くても十七、八歳からである。
全く興味がないとは言わないけど、積極的に参加したいとも思わないかな。なんか面倒くさそう。
陛下の挨拶が終了し、ホールから退去したのを見届けてから兄様も退出する。
これまた正式な順番があって、きょうだいの上から順に立ち去る必要がある。
席次はともかく退出順くらいは守らないとうるさそうだから、大人しく待つことにした。
一緒にいた兄様はともかく、向こう側の兄姉達を待つのは結構時間がかかるんだけども。
待ち時間に傍に控えていた侍女を呼ぶ。
「あのかたたちに、もちかえれるようなおかしかなにかをさしあげてきて」
私はよくこういうことを言い出すので、侍女も特にいぶかることなく了承した。
最初は文句をつけていた侍女達も、最近では諦めたようで何も言わない。
わざわざ来てくれた人へのちょっとした手土産のつもりだったんだけどね。
初回は賄賂や癒着に結びつくから頻繁にそんなことを言ってはいけないと、幼児だった私にでも分かるように簡単な言葉で長々と説明された。
子供だろうと王族は行動に責任を持て、と。最終的に慈善活動の一環と感謝の気持ちであり、私の名前は出さないということで決着をつけた。
向かい側にいた兄姉達が退席したのを見計らい、私も後宮に戻ることにする。
今日の催し物は楽しかった。いつもこんな公務ばかりなら嬉しいんだけどねえ。