“コッペリア” 1.美しい少女

とある田舎町の一角に、陰気な、古い家が建っていました。
村の人々は、この家にたいへん好奇心を抱いていました。
それというのも、この家にはコッペリウスという、何だか得体の知れないくせに態度だけは大きい男が住んでいたからです。
コッペリウスの様子が変わっているばかりではありません。この家からは絶えず変な音が聞こえてきて、それが夜中までも続くことがあったのです。
また、時には色々な色の煙が煙突からもくもくと立ちのぼったりするのを見て、多分コッペリウスが魔法を使っているのではないかと村人たちは考えました。
上手な人形作りとして知られてはいたものの、コッペリウスは人気がありませんでした。
道を歩いている時はいつも眉をしかめて難しい顔をしているし、子供たちが笑ったりしようものならステッキを振り回して追い払うという風だったからです。
ある日の事。この村の少女スワニルダが広場を通りかかると、人形作りのバルコニーに人がいることに気付きました。
二階にはフリルのついたピンク色の服を着た、スワニルダと同じ年格好の黒髪の少女が、椅子に腰掛けて本を読んでいるではありませんか。
「うわぁ、綺麗な人だなぁ。あの人にあんなお姉さんがいたのかな?それとも妹かも?」
そこでスワニルダは、二階の少女に向かって丁寧にお辞儀をしましたが、少女の方は振り向きもしません。
気が付かなかったのかもしれないと思ってスワニルダが二度三度お辞儀をしても、少女の方は相変わらず知らん顔なので、スワニルダはすっかり気分を悪くしてしまいました。
「あの人、お高くとまってるのかな。人がお辞儀をしているのに、何の挨拶もないし……まったく……」
その時、人の来る足音がしたので、スワニルダは急いで身を隠しました。
スワニルダが見ていると、許嫁のフランツが広場を横切って近付いてきました。
フランツは快活でハンサムな若者でしたが、やはり二階の美しい少女に気が付いたらしく丁寧にお辞儀をしながら、
「こんにちは、お嬢さん」
と話しかけました。
少女が返事をしないので、フランツは二度三度とお辞儀をしました。
すると驚いた事に、あの少女が立ち上がってフランツの方へお辞儀をしたのです。
フランツは吃驚したり喜んだりで、すっかり夢中になってしまいました。
実はコッペリウスがその少女の後ろに隠れていて背中のネジを巻いていた事を、フランツは夢にも知らなかったからです。
その美しい少女はコッペリウスの作ったゼンマイ仕掛けの人形で、コッペリアという名前でした。
フランツにはそんな事は判りませんから、もう夢中になってしまいました。
これを見ていたスワニルダは、もう悔しくてたまりません。
広場へ飛び出して行って、
「酷いであります、フランツ様!」
と相手を責めました。
「フランツ様は小生の許嫁でありますのに、あんな女性に気を取られて……フランツ様はもう小生を愛していないのでありますね!」
「いや、それはお前の思い違いだって」
突然スワニルダが現れたので、フランツは慌てています。
「村にやってきた新しい知り合いに挨拶するのは、当たり前だろ?」
「そんな言い訳聞きたくないのであります」
スワニルダはフランツの言い訳に耳を貸そうともせず、怒って顔を背けてしまいました。

 

Back    2