恐怖のお茶会〜the song of aquatic nymph〜 1

 

時は火の宮第3風の日、場所は黄竜亭の一室。
そこに5人の人間がいた。男性4人に対し、女性1人というアンバランスな比率だが、それを気にする者はいない。
言うまでもなく、ここはラーイとクルアーンの借りている一室である。……はずなのだが。
「いやぁ、この紅茶は絶品だね」
部屋の中心部のソファーに座っている黒髪の青年が言うと。
「そうですねえ。それに、このクッキーも美味しいですよ」
その向かいに座った青年が応える。
「……っていうかさ」
コバルトグリーンの髪の少年──ラーイはとうとう静かに口を挟んだ。
静かではあるが、単に感情の発露を抑えているだけで、言葉の中には何やら物騒なものが見え隠れしている。
「なんでアンタがここに居座ってんの?」
つり目がちなマラカイトグリーンの瞳が剣呑な色を湛えていた。
気付いていないわけでもないだろうに、声をかけられた方は笑顔で紅茶を飲んでいる。
「セイクリード=フレイ」
フルネームを呼ばれ、セイクリードはようやっとラーイの方を向いた。
「いやだなぁ、ライムトーリ君。多分君達のことだからろくな食事をしてないんだろうと心配して様子を見に来てあげたんだよ?ねぇ、クルアーン」
もう一人の、というよりこの部屋の正しい主──クルアーンは先程からずっと黙ったままだ。離れた位置にある椅子に座って、渋面でやり取りを眺めている。
「……しかも、増えてるし」
ラーイの言葉通り、部屋の中には招かれざる客がもう一人いた。
「すみませんねえ、急にお邪魔してしまって」
穏やかに言ったのは瑠璃色の髪の青年だ。
彼の名はサポディラ=オグマ。
二十台前半、といった外見であるが、歴とした七賢者の一人である。司る属性は“木”。
知性溢れるロイヤルブルーの瞳は、優しげに細められている。
部屋にただ一人の女性であるエセルは、内心ため息を吐いた。
彼女の琥珀色の目に映るのはほとんど非日常の世界だ。
この世界で知らぬ者はいないと言っても過言ではない七賢者の半数以上がこの場に揃っている。
それはもう嬉しい。
嬉しいことは間違いないのだが……。
同時に、この光景を見ると何やら物悲しくなってくるのもまた事実であるわけで。
現実と理想──あるいは噂──の間には広くて深い溝があるのだとつくづく思い知らされる。
いっそ何も知らない方が良かったのだろうか。
ふと考えるけれど、その答えはノーである。
偶然とはいえ、本来は王宮内の限られた場所や時間にしか会えないはずの賢者に懇意にしてもらっているのだ。素直にありがたいと思う。
ただし、今の状況は決して嬉しいものではない。
「そう思うなら、フレイさん連れて帰ってくださいよ」
今のラーイはまるで毛を逆立てた猫のようだ。
どうすればこの気まぐれな子猫をなだめられるのか分からない。
怒りの方向がエセルに向いていないことだけは、救いといえば救いであるかもしれなかった。
「それが出来るなら最初から来ていませんよ」
こんな所に。
副音声まで聞こえそうなサポディラの声に、エセルは彼の方を向く。
流石にいくら七賢者の一角といってもこの状況が本当に楽しいとは思えていなかったらしい。何となくエセルは彼に近しいものを感じた。
ラーイはますます剣呑な空気を漂わせてきている。
どうやら彼はセイクリードのことがあまり好きではない──というより、はっきり言ってしまえば嫌いなようであった。
以前に何かあったのかしら、とエセルは思う。
そうでなければラーイのこの態度は説明がつかない。
ごく短い付き合いでも、ラーイが何の理由もなしに他人を嫌うような少年でないことくらいは分かる。そして、何かあったのならその人物を非常に冷たくあしらうであろうことも。
それを踏まえると、二人の間に何かしらあったのだろうということは容易に想像できる。一体何があったのか、までは到底分からないが。
エセルは一つ息を吐いてラーイを鎮めようとした。
それより一呼吸早く。
「……お前達」
今の今まで一言も発さなかった銀髪の青年がよく通る声で三人を呼び止めた。
三人は皆一様に表情を変える。
「クルアーン……」
サポディラは顔を引きつらせ、ラーイは「やばい!」とでも言いたげな表情をし、セイクリードでさえも失敗した、と顔に書いてある。
どうしたのだろうと内心首を傾げたエセルは、次のクルアーンの台詞を聞いて大いに納得した。
「1時間だ。フレイとライムトーリはすぐに正座。オグマはグリーブさんを送ってからにしろ」

 

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