エセルはラウルに頼まれた品物を買うため、
ほとんどの物品を買い終え、残すところあと2品だ。
この調子でいけば日が暮れるまでに王宮へ届けられるだろう。
「あとはラジウム草と……」
その時、急に辺りが騒がしくなった。
見ると、道の真ん中に人だかりが出来ている。
「…………?」
首を傾げ、騒ぎの中心を目指していると、声が聞こえた。
「はんっ。いるよね、自分が出来ないからって出来る人間にケンカ売ってくる奴って」
若い、というより幼さの残る声だ。
人波をかきわけ、ようやく姿が見えた。
エセルがそこで見たのは見るからに屈強そうな大男と、それに対峙する12,3歳くらいの黒髪の少年が言い争っている姿であった。
周りの人々がヒソヒソと囁きあっている。
「何があったんだ?」
「いや、どうもあの男がガキの方にいちゃもんをつけたらしい。そんな短い髪で魔具を使いこなせるのか、とか」
「かわいそうにな、あのガキ。あいつは流れ者の傭兵だぜ。いくらなんでも相手が悪い」
そんな声が聞こえてきた。
両者はまだ言い合いを続けている。
「なんだとうっ!オレ様のこの髪を見て、よくそんなふざけたことが言えるな!」
男の髪は後ろで束ねられており、おろせば肩を越すくらいであった。
確かに、一般人の中にいれば少しは恐れられる長さだ。
けれど少年は怯まない、どころか更に喧嘩を売った。
「これだから世間知らずは困るんだ。その位じゃあ自慢にもならないね」
強気な発言である。
少年の髪は肩につかないような普通の短髪だ。
男はそれで少年に魔力がほとんどないだろうと判断したらしかった。
「減らず口もいい加減にするんだな。今すぐに泣いて謝れば許してやってもいいぜ?」
「なんでオレがあんたに謝んなきゃいけないワケ?謝るのはそっちの方だよ。ああ、違ったか。泣いて謝らせてあげようか、おっさん」
負けじと言い返す少年に、男がキレた。
「こっちが優しくしてやりゃあ、つけあがりやがって!泣いても許さねえから覚悟しな!」
少年はその言葉を鼻で笑い飛ばす。
「やれるもんならやってみなよ。ま、アンタには逆立ちしたって無理だろうけどね」
男は顔を真っ赤にして腰に下げていた剣を抜いた。
「おい、あんた。相手は子供だぞ」
「いくらなんでもそりゃあ…」
「うるせえ!」
頭に血が上った男には、人々の制止の言葉も耳に入らないようだった。
おまけとばかりに少年が挑発する。
「どうしたの?オレを泣かせるんじゃなかった?早くしなよ。それとも何?その剣は玩具なワケ?」
「ガキがぁ!!」
とうとう男は周囲の制止を振り切って、少年に向かって走り出す!
少年は、不敵に笑った。