一瞬、時が戻ったのかとさえ思った。
その娘──ルキアは、緋真に生き写しだった。
一年前に見つかっていれば、と思うと自分の無力さを嘆いた。
死の床についていてすら気にかけていた緋真の妹。
今でも鮮明に思い出す事が出来る、最期の記憶がフラッシュバックする。
『…白哉様。どうか私の妹を見つけてやってください』
その日は良く晴れた眩しい朝だった。
肌寒い風が吹いていたが、陽光は暖かく、何よりも庭が美しく見えた。
妻──緋真は庭の景色を愛していたし、既にもう手の施しようがなかったから、望み通り庭が見える様にと障子を開け放していた。
小さな躯が言葉を紡ぐ。
『そしてどうか見つけたら 私が姉だとは明かさないでください』
探しても見つからなかった妹を、こんなにも気にしているのだと…真剣な瞳は訴える。
『明かさずただ 白哉様のお力で どうか妹を護ってやってください』
生きているのなら会いたかったに違いない。
もしもう一度会えたなら、抱きしめて、もう二度と手を放さないと、出会った頃に話していた。
『私は妹を捨てました…。姉と呼ばれる資格などございません』
そんな事はないと、よほど言ってやりたかった。けれど今更言っても詮無い事だ。残された時間は限りなく短い。
『ですからどうかあの子には 白哉様を兄と呼ばせてやって頂きたいのです…』
重ねられた手に力がこもる。
握り締めた指は白哉の掌よりも小さく、ずっと触れていたのに冷たい。
この手の中にどれだけの想いを抱えていたのだろう。
『最後まで甘えてばかりでごめんなさい…』
出逢った時の記憶が。
『白哉様にいただいた愛を お返しできなくてごめんなさい…』
二人で過ごした思い出が。
『白哉様と過ごしたこの五年 緋真は夢のようでございました…』
想いが溢れ出して、言葉が出てこない。一体何を言ったら彼女に捧げるに相応しいのか。
普段から言葉を上手く使うのは不得手な自分がこの時ばかりは本当に悔やまれた。
そんな苦悩を見透かしたかの様に、緋真は微笑う。
儚げなのに愛情の籠もった眼差しが白哉を捕らえた。
けれど微笑んだ瞳には涙が滲んでいる。それとも、滲んでいるのは自分の視界か。
『白哉様………』
あまりにも短かった幸せな日々。
せめて、もう少しだけ。多くの命を看取ってきた自分が思うのは愚かかもしれなくても。
だが時間は無情にも流れ続ける。
二人が共に歩める終わりの時まで、白哉は小さな手を握り続けていた。
守れなかった命、諦めてしまった願い。
彼女の最期の望みを叶えるために──。
一歩を踏み出した。