未来を見てみたい

 

「どうした?」
足を止めた少女を気遣うように、青年は声をかけた。
声を掛けられた少女は一度青年──クラウドの方を見てから視線を落とす。
「力が怖いの」
心からの言葉だった。
「助けに行きたいのに、また力が抑えられなくなったらって思うと」
先程は暴走していた力も、今はクラウドのおかげで落ち着いている。
けれど、これからもその状況が続く保証はどこにもない。
ティナの言葉にクラウドはやや自嘲気味とも聞こえるような声音で答えた。
「誰にでも迷いはある」
懐から一輪の薔薇を取り出す。
「がむしゃらに進める奴なんて、ごく一部だ」
薔薇を見て、ティナは首を傾げる。
「それは?」
「フリオニールの『夢』だ」
「夢?」
フリオニールの言葉を思い出そうとするかのように、あるいは、真っ直ぐに見つめるティナの視線から逃れるように、クラウドは顔を上げた。
「『のばらのさく世界』。それが、あいつの願いらしい」
恥ずかしがりながら、それでも教えてくれた『夢』。
「あいつは──」
視線をティナに戻す。ティナはじっと薔薇を見つめていた。
「『夢があるから、あきらめずに戦える』と言った。あの潔さは、たまにうらやましくもなる」
「まっすぐで、すてきだね」
いつも前向きなフリオニールが脳裏を過ぎる。
あの姿勢だけは素直に見習いたいと思った。
「クラウドには、どんな夢があるの?」
問われて俯く。
クラウドにとっての『夢』。
遠い昔はいくつもあったはずだった。けれど、ここに来る前も、この世界に呼び出された後も──。
「俺はなくしたんだ」
「え?」
「そういうあんたは、どうなんだ?」
これ以上何かを聞かれる前にと、問い返した。
困った様に、ティナは視線を落とす。
「私も、わからない」
目を閉じて頭を横に振った。
その表情は寂しげだ。
「本当の意味での未来って、考えたことなかった」
ずっと未来どころか、「今」さえ不安定だった。
考えること自体が恐ろしくて、逃げ出すことしか考えてこられなかったように思う。
「先のことなんて、ずっと怖いだけのものだったから。けど、今は──」
閃いた、というようにクラウドの方を見た。
「ねえ、同じ夢を見るのはどうかな」
「同じ?」
同じ夢。手の中にある赤い花。それはフリオニールの夢。
「のばらの咲く世界か?」
「うん。でもそこにはのばらだけじゃない。きっと、いろんな花が咲いているんだと思う。私の好きな花も、あの子の好きな花も」
咲き乱れる花は、きっと美しかろう。
「夢の話を聞いて、私、初めて思ったの。恐れるだけじゃない未来を──」
壊すだけではなく何かを創り上げるために自分の力を使えたら。
そして様々な花が咲く世界を創っていけたなら。
「そんな世界を、みんなと一緒に見てみたいって」
強く強く、心に思い描く。
「この想いがあればきっと、迷うことはあっても、心は揺るがないはず」
一度言葉を区切り、ためらうように続ける。
「あなたの好きな花だって、きっとそこに──」
ティナの言葉に、クラウドは目を細めた。
花、といえば思い出す光景がある。
ミッドガルの下町の教会。湧き出る泉。咲きあふれる花々。そして、一人の女性───。
連想される映像を振り切るように目を閉じた。今考えるべきは、過去への回想ではない。
次に目を開けた時には先ほどの懊悩など欠片も見えなかったので、ティナはそれには気付かなかったようだ。
いや、そうでなくとも、自分の思いつきに心を奪われていた彼女には分かりはしなかっただろう。
「そう簡単に叶う夢じゃない」
ティナが振り向く。
「だが、悪くないな」
クラウドの言葉に、ティナは微笑んで頷いた。
「そのためにも、まず──」
「探しに行こう」
夢を失くしてしまった青年と、未来を恐れていた少女は、こうして仲間と同じ夢を見ることにした。

 

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