街で偶然、カオルに出会った。
「カオルっ!?」
声に反応して、一層精悍な顔立ちになった青年が驚いた様に振り返る。
視線の先には声を掛けた、太陽色の髪をした女性。
「ルナ、か…?」
あの惑星から帰還して早10年。
二人はすっかり面変わりしていたが、それでもお互いのことが分かった。
ルナはその事に素直に喜ぶ。
「良かったぁ!やっぱりカオルだ!」
オレンジの髪を伸ばしたルナは、左手に指輪をしていた。
ちらりとそれをみたカオルが、一瞬目を伏せる。
けれどルナはそれに気付かずにカオルに話しかけた。

言いたい言葉があった。けれど結局、言わなかった…言えなかった。
彼女は快諾したかもしれないのに、臆病な自分は言う事が出来なかったのだ。
優しい彼女は、もしかしたら気を遣って返事をするかもしれないと思った。
弱みにつけ込む様な事はしたくなかったのだ。だから伝えなかった。
だが、その結果がコレだ。自嘲気味に考える。
こんな彼女の姿は、出来れば見たくなかった。我が侭だとは分かっていたけれど。
しかし、せめて最後にこれだけは。

耳元で、囁かれた言葉。頭の中でリフレインする。
「ルナが、好きだった」
たった一言。別れの言葉。
それだけを残して、カオルは雑踏の中に紛れていってしまった。
涙が溢れ出してくる。
どうして?何故、自分はあの時に勇気を出して言わなかったのだろう?
どうして彼は、言ってくれなかったのだろう?
左の薬指に嵌った指輪を投げ出して彼に抱きつけたら、どんなにか良い事だろう。
「カオル…っ」
だが、実際には呟くような声で彼の名を呼ぶだけで精一杯だった。
待って、とは言えない。
言ってしまえば、この指輪をくれた誠実な青年を裏切る事になってしまうから。
「…っく、……」
止めどなく流れる涙もそのままに、ルナは泣き続けた。
あれが、永遠の離別の言葉だと判ってしまったのが、途方もなく悲しかった。


* * *
現在は青春時代の後悔の上に立っている。
BGM:柴田淳「少女」

 

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