対抗対象対応体様 〜Rival〜

それは、エーテルの月のとある一日の話。

その日、珍しく朝から一堂に会していた七賢者は、珍しく朝からやってきたエセルとサラを迎え入れた。
「おはようございます、皆様」
「どうも、おはようございます」
エセルとサラの挨拶に、それぞれ思い思いに挨拶をする。
「どうしたんですか、珍しいですね」
とは出入り口の一番近くにいた水の賢者の言だ。
その言葉にいっとう小さい風の賢者も頷く。
「あの、ご迷惑でなければ、受け取っていただきたいと思いまして」
「って、何を?」
ラーイの疑問符に、サラが答えた。
「最近流行のバレンタインに便乗よ」
「あー、もうそんな時期ですか」
一人納得したように頷く木の賢者。少しだけ眉をひそめたのはエーテルの賢者と土の賢者で、喜色を浮かべたのは金の賢者と火の賢者だ。
別に眉をひそめた二人もその行事を知らない訳ではない。単にあまり良い思い出がないだけである。
「サラと二人で色々作ってきたんです」
「それはそれは、ありがとうございます。もちろん、僕はありがたく受け取りますよ」
僕は、の部分にやけに力を込めるセイクリードをラーイは一瞬だけ睨みつけた。
「ねぇ、バレンタインって何?」
「あら、ラーイは知らない?」
エセルはそういってバレンタインについて説明を始める。
そもそも統一教の聖人の命日で、近年では恋人達が贈り物をし合ったり、片思いの人が相手に告白したりするイベントであること。
それに加え、恋人以外でもチョコレートなどのお菓子をお世話になった人にあげたり、友人に配ったりする風潮が広がったのだそうだ。
「もっとも、それはごく最近の流行なのだけれどね」
そう締めくくったエセルに、ふぅんと頷くラーイ。
言いながらエセルは手際よく包みを広げた。甘い香りが部屋に広がる。
一口サイズのチョコは、花や葉っぱなどそれぞれ違う形をしていた。中にはよく分からないものもある。
「こっちがエセルので、こっちが私の作ったものです」
早速手を伸ばす金の賢者と火の賢者を見ながら、サラが言い足した。
「あ、ひとつ言い忘れてたけど」
薄く微笑む。
「エセルが作った中にひとつだけ、ハバネロ入りのチョコがあります」
今にも口に入れようとしていたアルとトーリーの動きが止まった。
「なーんでそんなことしちゃうんだよー!」
「そっちの方が面白いじゃない」
抗議するアルに、しれっと答えるサラ。エセルは微笑んだまま何も言わない。
「これ、今どっちから取ったかな」
真剣に頭を捻るトーリーを尻目に、いいや!と思い切りよくアルは手にしていたチョコを口に放った。
「うまーい!」
どうやらセーフだったらしい。トーリーも悩むのをやめて口に入れた。どうせ外れる可能性の方が高い。
こわごわと咀嚼して、一気に笑顔になった。
「おー、本当にうまいっすよ。サンキューな、二人とも!」
「喜んでいただけて良かったです」
そのやりとりの間に、他の賢者もそれぞれチョコを手に取る。セイクリードはエセル、サポディラはサラのだろうか。
「うん、美味しいですよ」
セイクリードが言って、ラーイに場を譲った。その笑顔が何かたくらんでるように見えて、ラーイは手に取るのをためらう。
しかし、眉をひそめていたクルアーンとキルケゴールすらも手に取ったのを見て、一番手近にあったチョコをひとかじりした。

………。

「うわ、何これ!」
ものすごい味がした。
「あら、大当たり」
楽しげなサラの反応に思わず睨む。エセルが割って入った。
「大丈夫、ラーイ?」
手渡された水を一気に飲み込む。一息ついて、「最悪」と呟いた。
「ごめんね、お詫びにこれをどうぞ」
差し出されたのはチョコのかかったクッキーである。
「これは辛くないわよ。エセルが得意なクッキーだから」
「あー、いーなー!それもうまそう!」
うらやましげなアルに、「ごめんなさい、これ1個しかないんです」と謝るエセル。
「最初から、はずれを引いた人の分しか作っていないってことですね」
セイクリードが笑う。そして小声で「良かったね、大当たりで」とラーイにだけ聞こえるように呟いた。
ラーイは肩をすくめて、まぁ良いかとクッキーをほおばる。
エセルが作った普通のチョコを食べるだけ、よりはこっちの方が良かっただろうと思い直すくらいには美味しかった。

 

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